第一章 とびっきりの糞野郎がファンタジー入り

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 そして、そのマッチョマンたちが、陸上競技選手も真っ青な綺麗なフォームで走り出した時の絶望感を知っているだろうか? しかもすごい涎垂らして、ニワトリである頭部を凄い速度で左右に回転させ始められた時の気持ちがわかるだろうか?  とんでもない量の唾液を撒き散らしながらこっちに向かってくるそいつらを見て、俺の脳内の選択コマンド4種類が全て『逃げる』へと変化する。 「ぎょぇぇぇぇぇぇっぇええふぉるこぽぉおおお!」  耳を塞ぎたくなる奇声を発しながら大量のムキムキマッチョマンが迫りくる光景を前にして、俺は目の前のパチンコ台を担いで一目散に逃げだした。捕まったら間違いなく殺される。恐らく想像を絶する殺され方をする。そう直感した。  パチンコ台を捨てないのは、可能性は低いが、ピンチになったらこれが変形してお助けアイテムになってくれると信じているからだ。  しかし、逃げる先には大きな木が生えている以外には何もなく、既にゲームオーバーの兆しが見え始めている。パチンコ台が変形する兆しも今のところない。 「本当に何なのこの無責任な異世界召還? 始まって5分で終わりとか何のために呼んだ?」  でもよくよく考えればこれが現実で普通なのかもしれない。そう、俺が知っている異世界召還系のライトノベルとか漫画とかアニメが特別すぎただけなんだ。  実際はこんなにも無責任で、適当で、突然に呼ばれて放置プレイされるのが普通で、ライトノベルや漫画とかは、そんな中でもたまたま上手くいった奴等の物語が描かれてるだけなのだろう。 「はぁ……はぁ……現実は、こんなにも……厳しいの……ね」  絶望的な状況で、それでも諦めずに懸命に生きようと走るなか俺は思う。  無の能力を使えて銀髪イケメンで最強の主人公とか、SSSランクのなんかすげえギルドに入ってて、最初からチート性能の赤髪の主人公とか、異世界に行って、最初弱いけど最終的に最強になる主人公とか、二つの国が戦争中で、片方の国の王子様とか伝説の傭兵の主人公とか、そんなのは創作物だけの展開なのだと。  謎にヒロインにモテまくりの主人公とか、特別に魔法が使える主人公とか、そういうのはただの設定であって、異世界に来たからって、突然そんな力がつくわけでもないし、謎にパチンコ台を渡されるだけで己の力だけでなんとかしないといけない無慈悲なものなのだと。
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