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もしかしたら今頃、謎に誰も居ない闇の空間で謎の組織の会話から始まるファンタジーが展開されているのかもしれないが、ぶっちゃけ今の俺の状況には全く関係なく、恐らくここで死んだらその展開が何なのかもわからず終わるのだろう。
「ちくしょう……なめんなよ……やってんやんよ! ただのパンピーでも……見事この異世界を生き抜いてやんよ!」
とにかく木まで逃げ切れば俺の勝ちだと信じたい。ムキムキマッチョマン共が走るゾンビ映画並みの木登り技術を持っていた場合のことは、この際もう考えないでおく。
「うぉおおおおおおおおおお何だこれ? 何だこれぇぇぇえ?」
その時だった。俺が現在向かっている大木の方角から、背後で走り回っているムキムキマッチョマン共とは明らかに異なる男性の叫び声が聞こえてきたのは。
俺から見て大木の裏側にいるようなので姿は見えないが、叫び方からして何かに追われていると予想、そして俺と同じく大木に向かって走っている気がする。つまり向こう側からも恐らくムキムキマッチョマンが来てるってことになる。いよいよ逃げ場ないんだけど。
「あ、ちょっと待って、パチンコ台重すぎる?」
途中、重いだけで何の役にもたたないことに気付き、もっと早くに気付くべきだったと後悔しながら一か八か、このパチンコ台が敵にぶつけてようやく効果を発揮する武器である可能性に賭けて、俺はパチンコ台を背後に迫ってきているムキムキマッチョマン共に投げつける。
だが二秒もしない内に、パチンコ台はムキムキマッチョマンに殴り飛ばされてガショッ! という鈍い音をたてながら、凄い勢いで遠くへと吹っ飛んでいった。
「あいつらの腕力!」
結局何の役にも経たなかったパチンコ台と、そのパチンコ台をワンパンで遥か遠くまでぶっ飛ばしたムキムキマッチョマン共の信じられない腕力に絶望しながら、俺はすがる思いで大木へと駆けてしがみつき、まるで猿かのような自分でも驚きの速さで大木の上へと登った。
「よ、よかった……あいつら登って来ないみたいだ」
俺が木の上へと登ることで何事もなかったかのようにピタッと止まり、大木の上にいる俺を直立不動で見上げて見つめるムキムキマッチョマン共を前に安堵の溜息を吐く。
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