３０代

　大学を卒業してから十数年ぶりに、私はMと街角で偶然再会した。現在は不動産関係の仕事をしているという。

　近くのコーヒーショップに入ると昔話しに花を咲かせたが、Mの顔に覇気がないことを私は気にしていた。

「なんか悩みでもあるの？　相談にのるよ？」私はストレートに訊いた。

　Mは一瞬驚いた顔をしてから、背中を丸め、観念したような素振りをみせた。

「･･････家族以外には誰にも話したことないんだけど」

「どうぞ、どうぞ」

「俺の家系ってさ、男のほとんどが３０代で死ぬんだよ。すごい短命なんだ」

「それって･･････偶然じゃないの？」私はすぐに笑い飛ばした。よく聞く話である。身内が短径だと気になってしまうものだが、ほとんど場合、杞憂で終わる。

「いやいや、マジなんだ。真剣に聞いてくれ」

　Mが若くして結婚したのはそれが理由だという。父親、祖父、叔父、みんな若くして結婚し、３０代でこの世を去っていると真顔で説明していた。

　遺伝的な問題ではないらしい。病気はもちろんだが、事故、災害と死因は様々。