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―広が挨拶をしてくれて数日後、私も広の家にお邪魔した。
夏木の敷地に入るのは9年ぶり。
9年前、泣きながら駆けた門構えを二人で潜る。
少し歩いて玄関の戸を広が開ける。
「じぃちゃん?満連れてきた!」
玄関を入って広が声を上げる。
でも、何も返って来ない。
「じぃちゃん?」
誰も出てこない。
「おかしいな。来るから家に居るようにって言っておいたのに…。とりあえず入って」
広は靴を脱いで玄関から上がり、私にスリッパを出してくれた。
「ありがとう」
「いいえ」
「お邪魔します!」
私も声を張って言って上がる。
広の後をついて奥へと進む。
色んな部屋を経由して客間に入っても誰も居なかった。
「工場かも」
広は呆れたように話した。
「工場?」
「暇さえあれば工場に居るから、多分―呼んでくる」
「私も一緒に!」
私の言葉に広は一瞬考えた。
「汚ない場所だから待ってて」
「汚れても大丈夫」
広は優しく微笑んだ。
「そんな綺麗な格好してくれてるのに、汚れたら勿体ない。大丈夫、嫁に着たらイヤでも入って貰わなきゃならない場所だから」
広の言葉に、私は少し照れながら頷いた。
広に客間の座布団に座って待ってるように言われて、広は工場におじいちゃんを探しに行ってくれた。
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