2 故郷

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夕暮れの事務所で私はデスクを片付けていた。 空き箱に持ち帰るものを入れる。 エリさんは、私に解雇を命じた。 従わなければ世間に公表すると言われた。 こんなこと表沙汰になったら、私はどこの事務所にも雇って貰えない。 今日中に荷物を纏めて出ていく約束をし、エリさんは事務所をあとにした。 「お前、最低だな」 荷物を片付ける私を睨むように離れた場所から見ていた久米さんが言った。 「2年前って…そんな前から男女の関係になって俺らも騙してたんだ?」 久米さんの怒りをひしひしと感じる。 何も言えない。 「完全に裏切られた」 収まらない怒りを壁にぶつけて、久米さんは事務所を出て行った。 私の前のデスクで、佐藤さんが椅子に深く座って資料に目を通していた。 紙をめくる音、私が荷物を詰める音。 暫くそれだけだった。 デスクの荷物を詰め終えると、今度は後ろの棚に移動して、私物のカメラ機材を片付ける。 「春川」 呼ばれて手を止める。 「真木先生が帰ってから一度話したらどうだ?」 私は首を横に振る。 「こうなった以上ここには居られません」 私は静かにそう言った。 「終わってるんだろ?真木先生とは別れてるだろ?」 佐藤さんがなぜそんなことを知ってるのかわからずに、私は彼の方を見た。 「俺、結構敏感だから…春川と先生のことだいぶ前から勘づいてた」 「えっ…」 「二人の空気感が変わったし、真木先生は今、住友さんに夢中だし」 それは妙に納得の回答だった。 佐藤さんに見透かされてる感じは前からあった。 だから、少し苦手だった。
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