5637人が本棚に入れています
本棚に追加
ーー数年後……
車を実家の前にとめて、雪掻きしたばかりの玄関までの道を小走りで走り、私は玄関の扉を開ける。
「こんにちは!」
声を掛けたけど、誰も返事がない。
ブーツを脱いでいると、部屋の奥で賑やかに笑う声が聞こえた。
雪を払って家に入り、廊下を歩いて居間へ行く。
引き戸を開けると暖かい部屋で、父が娘の光(ひかる)を背中に乗せて炬燵の周りを馬になりきって歩いていた。
私の姿を目にしたとたん、父から満面の笑みが消える。
光は父から飛び降りて、私に抱きつきにきた。
「ママ、お仕事終わったの?」
「うん、終わったよ。おじいちゃんに遊んで貰って良かったね」
「うん、お馬さんの前はね、一緒にお姫様ごっこしたのよ」
無邪気に話す娘の後ろで、父は何も言わずにお茶の用意をする。
お姫様ごっこの詳細を聞きたい気分だけど、私は触れずに良かったねと光に微笑んだ。
「ちょっと休憩して行け」
湯気の上がる湯呑みを炬燵のテーブルの上に用意してくれた。
「ありがとう」
上着を脱いで横に置き、私は湯呑みが置かれたテーブルの前に座る。
炬燵が冷えた足の先を温めてくれる。
「光ちゃん、おやつにおみかん食べるか?」
「うん!」
私には滅多に見せない優しく微笑みながら話す父の顔。
光は父に差し出されたみかんを器用に剥いていく。
最初のコメントを投稿しよう!