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アイは彼のほうをちらりと見た。
その表情に彼は違和感を覚えた。
「どうかしたか?」
「別に」
「ねーねー、あのビルすっごい燃えてるよー」
コマリが双眼鏡を見ながら言った。
「4階のベランダで誰かが手を振ってる。やっほー」
「あれ、煙で苦しんでるだけじゃないかなあ?」
キョウコもそれを見ながら首をかしげた。
彼はその男の顔を見たかったが、肉眼では厳しい。
「4階のどこだ?」
「一番端っこです。この寒いのに裸ですよ」
「裸!?変態ですね」
マリアが容赦なく言った。
「変態だよねー。あ、落ちた」
「落ちたの?あの高さじゃ即死ね」
「まあ、真下で見たかったわあ」
「サキちゃん、さすがに趣味悪いと思うなあ」
彼の目にも何かが落ちたのはわかった。
あの高さだと助からないのは病院の亡者落としで知っている。
彼は迷ったが言う事にした。
「あいつ、グループのリーダーだ。女の人たちがそう言ってた」
全員が彼を見た。
そして少し経つと笑い出した。
コマリが最も笑っていた。
「あはははは!それ、さいこー!あっ、おかしすぎて涙出てきた!」
彼女は大笑いし、本当に目から涙をこぼした。
「ふふふ、コマリちゃん、笑いすぎですよ」
「えー、マリアちゃんだって涙出てるじゃん」
「二人ともどうしたの?涙腺ゆるいわよ」
「サクラコ、そういうあなたも泣いてるわよ?キョウコ、あなたも。ふふふ」
「あれ?変だなあ……」
「え?あら、ほんとね。でも、そういうサキだって……」
初めは笑い涙だったがやがて笑いが消え、涙だけが出続けた。
彼女たちは泣いていた。
「みんな、よく頑張ったね」
アイだけが泣かずに言った。
無表情でアリーを見る。
「命と引き換えでもと思ってたのに、あんたのせいで復讐が台無し」
「ご、ごめんな」
彼はよくわからないが謝るしかなかった。
「でも、誰かが死ぬより良かったと思ってる」
「なにそれ?もっと真剣に謝りなさいよ。あんたのせいで皆泣いてるんだから」
「ごめんな……」
「真剣に謝って」
アイの怒りに彼は違和感を覚えた。
いつもと違って理不尽な怒りだ。確かに復讐を台無しにしたが、彼女も誰にも死んでほしくなかったし、人質も全員救出したかった。どちらも叶ったのにここまで怒るだろうか。理不尽というより壊れた自動人形が喋っているようで怖かった。
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