第3章:女グループ

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木の実割りを試行錯誤しているうちに彼はだんだんとコツがわかってきた。 1個1個を割って渋皮を剥くよりも数十個をまとめて割ってから渋皮を剥くほうが少しだけ早い。小さな進歩だが、木の実は大量にあるのでその差で作業時間は大きく減るはずだ。 彼は任された仕事をただ律儀に進めているわけではない。この倉庫は微妙に寒く、さっさと終えて出て行きたいだけだ。できれば昨晩使っていた暖房装置を使ってほしいところだが、朝には消えていたので使用が制限されていると推測した。 この次に任される仕事は今よりマシなものだと信じながら彼は作業に没頭する。 スダジイといわれる種類の実が終わった頃に扉の鍵が開いた。 朝と同じ面子が彼を見た。 「けっこう進んでるね」 「おー、さぼってないじゃん!」 二人は少し感心したらしい。 「死ぬほど面倒な作業だけどな」 「ご苦労様。実はノルマがあったけど、真面目にやるか試してたの。合格よ」 「昼ごはん抜きにならなくてよかったねー」 やっぱりそのつもりだったか、と彼は心の中で言った。 アイは持ってきた盆を床に置く。 その上にあるのは何かの塊と2つの錠剤。そして水の入ったグラス。 塊はなんらかの植物を蒸したか焼いたものらしく、白い湯気が出ている。 胃の底を刺激する匂いがした。 「この薬はなんだ?」 助けた相手に毒を飲ませる人間はいないが、彼は不安になった。 「ビタミンBやカルシウムって言葉はわかる?栄養素を補うために皆飲んでるの。本当はそういう分を補える野菜を育てたいんだけど、今は他で精一杯だから。不安だったら飲まなくていいよ」 「葉酸とビタミンDの錠剤がほしいんだけど、どこのグループも持ってないんだよねー」 「持ってるけど隠してるんだと思う」 二人が話すのを聞いて彼はここの食糧事情の一部を理解する。同時に、今は銃が最優先で入手すべき道具だが、そういう栄養剤も入手リストに加えた。 彼はほかほかした塊を手に持つと紫色の皮を剥くべきか悩む。 2人に聞くと変に思われそうなので思い切ってそのまま食べてみた。 熱い。だが、甘い味が口いっぱいに広がり、自分が空腹だったことを今さら思い出した。 熱さを我慢しながらがつがつと食べると水を飲んで流し込む。 「午後もがんばって」 「それじゃねー」 「あ、待ってくれ」 二人が部屋を出ようとしたので彼は引き止めた。 7日間の労働の後について話をしたかった。
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