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女性は体力が尽きたらしく、数十回目で殴打をやめた。
「いてえよ……やめてくれ……」
瀕死の男も泣いている。
「亡者から逃げる最中に怪我したの?」
「そうだと言ってました」
瀕死の男の代わりに眼鏡の女がアイに答える。
「塀の上に登ったときに足を滑らせ、民家の柵に腹が突き刺さったそうです。仲間に見捨てられ、必死に逃げているうちにここを通りかかり、救助を求めたと」
「自分の顔を覚えてる女がいると思わなかったんだ?」
「あはは。最悪の場所に来たねー」
アイはポケットから小刀を取り出した。
コマリのものとは違った形状だ。
殴り疲れた女性へそれを差し出す。
「とどめをさす?」
女性はそれを奪うように取ると男に馬乗りになり、振り上げた。
男の首をめがけて振り下ろそうとする。
しかし、ナイフはぶるぶると震えたままいつまで経っても下りない。
男は「やめてくれ」とつぶやいた。
やがて女性の腕が弛緩した。
「できません……」
「まあ、それが普通だよ」
アイは小刀を戻すと言った。
「あとは私たちがやっておくから仕事に戻って」
「リーダー、彼女は今日はもう……」
眼鏡の女性が疲れ果てた人物を心配して言った。
しかし、当人は首を横に振った。
「何かしてるほうが気が紛れます……大丈夫ですから……」
仲間に支えられながら復讐を完遂しなかった女性は建物に入ってゆく。
残ったのは幹部クラスの3人と部外者のアリーだ。
「さて、穴掘るのが面倒なんだよね」
「困るよねー。ショベルカーとか使えたらいいのに」
「この人には無理ですか?」
眼鏡の女性はアリーを指した。
彼は急いで首を横に振る。
「それはさすがにかわいそーだよ、マリアちゃん」
「じゃあ、誰に頼みましょうか?もう。このゴミが動けるなら自分で掘らせるんですけど」
マリアと呼ばれた女性は男を蹴った。
この6人は荒事に強いから上の階級に選ばれたのだろうかと彼は考える。
元より非力であるが、彼女らとは決して殴り合いをしないぞと誓った。
「たすけて……」
男はすがるようにアイを見た。
目からぼろぼろと涙をこぼしている。
「助けると思う?」
「たすけて……」
「あんた、今まで襲った人たちにすまないと思ってる?」
「おもってる……たすけ……くれ……」
「へえ」
アイはにやあっと笑った。
「じゃあ、私のこと覚えてる?」
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