第1章:動く死者と生者

4/11
前へ
/121ページ
次へ
(このモドキたち、目が見えているようだな……) 彼は箱の下に集まってきた生き物たちをモドキと名づけた。 人間もどきだ。 建物から出てきて合計6体になったモドキは駄々っ子のように箱をバンバンと叩くが、それ以外には何もしない。 箱の両脇に付属している鏡の部分を持ってよじ登ろうともしないし、誰かが踏み台になって別の個体を上らせようとする気配もない。知能は非常に低いようだ。 だが、彼が頭を覗かせるとその部分に集まってくる。 目が濁っているから音で獲物を追いかけるのかと思ったが、そうではないらしい。 (物を投げたらそっちに気を引けるか?) 彼は所持品を確認するが、奴らが興味を示すような大きなものは持ってなかった。 上着を脱いでからそれを丸めて投げてみる手もあるが、効果がなかったら半裸で過ごさなければならず危険だ。この世界はまだ冬ではないらしいが、それでも秋くらいの気温だろう。日が沈んだら冷えそうだ。 暖をとる方法も考えなくてはならない。 「落ち着け。まず落ち着け」 彼は指先に思念を集中して小さな炎を出し、なぞの生き物たちに見せてみる。 野生の生物なら火を恐れるものが多いから試してみたが、効果はない。 単に火が小さいせいかもしれない。 「催眠は効くのか?おい、こっちへ来い」 彼はわざとモドキの注意を引き、全員の視線を自分に集めて催眠の魔眼を試してみた。 一流の魔法使いたちは長時間の催眠で動物や召喚生物を使役できる。同じ人間ならどうかというと魔力の小さい相手ならば可能だが、それは悪魔召喚と同じレベルの禁忌である。実行したものは最低でも5年は思想強制所に入れられ、以後の人生にも重い罰則が科せられる。この法律がなければ彼は誰かに利用されていただろう。 彼はほんの数秒だけ動物たちを操れるレベルだったが、モドキたちに効果はなかった。 6体とも効かないのだから個体差がどうこうではなく、種族として効果がないと考えるしかない。 (催眠は興奮した動物にはかけにくいが、そういう理屈か……?) 彼はこの人間もどきたちの生体について考え始めたが、そこでようやく根本的な疑問を抱いた。 そもそもこいつらは何なのだ?
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加