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怪物カメラ
1
おかしいな。
今日、高校には津村実里は来ていない。実里は女優で、清楚系を売りに人気を博している。だからこそ、僕が彼女と恋人どうしであることは、誰にも言わずに隠しているのだ。別に彼女の事務所は恋愛禁止ではないらしいけど、彼女の「僕を巻き添えにしたくない」という思いと、僕の「余計なことで彼女の仕事に穴を開けたくない」という思いがシンクロし、結局僕らは学校でさえもただの知り合い程度の雰囲気で通しているのだ。
それで、今日彼女は来ていない。仕事の時は連絡をくれる筈だし、熱があっても学校に来るくそ真面目なやつだ。普通にすっぽぬかすなんてことはないと思うけれど………。
そんなことを思いながら、僕は昼休みの誰もいない屋上に腰を降ろして空を見上げる。それは明らかに青空であったのだが、僕にはすごく不吉なものに見えた。
そこに突然、「ワッ」という聞き覚えのある声がした。僕はその声のする方を見たら、案の定、高橋だった。
「何回もされたから、もう驚かないよ」僕はそう答える。
「どうしたんだ、久藤。一人でボーッとしてよお」
「いや、まあ考え事をしてたんだ」そういうなり僕は立ち上がり、柵に寄りかかる。
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