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顔を上げれば風呂から上がった恋人が感情のない顔で呟き、清良の隣に腰を下ろした。湿った前髪が額に落ち瞼にかかる。髪の隙間から見えた瞳にどきりとして、清良は向けていた視線を本に落とした。
「アホらしくって? 帝国が?」
清良より読み込んでいるだろう昴に問えば、全部だ、と大雑把な答えが返ってくる。
「それって、皇子の地位も、半獣人の血も受け入れたってことだよね」
昴の言葉を何度も咀嚼して聞き返せば驚いたように一瞬だけ瞳が丸くなり、見直す間もなく眇められた。
「お前は……いや、その本はもう読むな」
「え? 読み終わったからいいけど、好きじゃない? もしかして、借り物だった?」
「好き、とは言い難いな」
珍しく歯切れの悪い言い方をする昴にこれ以上「読みたい」とは言えなかった。
「そっか」
気になるエピソードをもう一度読み直したかったが、持ち主が駄目というのなら仕方がない。名残惜しく思いながら本棚下段の奥へ戻す。この本は棚の奥で、表紙を壁につけるようにしまわれていた。出し入れしていくうちに向きが変わって奥へおいやられてしまったのかと思っていたけれど、昴の反応を見る限りわざと見つからない場所にしまっていたのかもしれない。
――だったら鍵のかかる棚にでもしまえばいいのに。
しかし昴は清良が読んでいる最中止めなかった。読ませるのはいいけれど、最低限に済ませたかったみたいなそぶりに疑惑と焦燥感が募る。
「昴は、ジェイダイトが嫌いなの?」
「好きでも嫌いでもない。お前は物語の人物に感情を込めすぎじゃないか」
「いつもは読み終ればそうでもないんだけどね。なんでだろう」
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