翡翠に告げる物語

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 本を読んで昴が言うように登場人物の気持ちになることがあるが、読み終わって余韻に浸れば現実に戻ってくる。あの本はとくに、一度しか読んでいないのだからここまで引きずるのは珍しかった。  ふいに背中から暖かいものに覆われ、体を締め付ける心地よさに清良はうっとりと身を預けた。拘束が強まり、不思議に思って見上げた顔に唇が落とされる。  触れるだけのそれは徐々に深まり、じれったさに体を向かい合わせて隙間なく抱き合った。唇を貪り合い、先ほどまでとは打って変わって濃厚になった空気に眩暈がする。  なのに、心に生まれた焦りは拭えない。恐怖、寂寥、虚無。昴から感じられたネガティブな思いを払拭したくて、清良は自ら進んで下半身を押し付けわかりやすく誘った。  昴を一人にはしないというふうに、清良は消えてしまいそうな昴を捕まえる。 「お前を悲しませるのは本望じゃない」 「悲しいのは、昴でしょう?」 「辛い思いもさせたくない」 「僕がいつ辛いって言ったのさ。変な人だね」  しっとりと汗ばむ背に指を這わせ、肩甲骨をなぞり脇腹を擽ってやる。  今日の昴はどこかおかしい。そして自分も、正常とは言い難い。 「無茶はしないでくれ。自分を犠牲にしてまで、救わなくていい」 「昴? んっ……ぁ」  問う言葉は唇に呑まれ、横抱きにされた清良は誤魔化されたことに気づきながらも昴を止めようとは思わなかった。  広いベッドに横たえられ、清良はこれから訪れる悦びを思い身を熱くした。
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