第1章 本

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
朝8時、カランカランと扉を鳴らしながら「おはよう」とおばあさんが入ってきた。小柄なおばあさんの名前はすみえさん。ここの常連さんで毎朝一番にモーニングセットを食べに来てくれる。そしてここはカフェひまわりであり、私が店主である。50歳になる手前に自分のやりたい事をしたいと仕事をやめ、勉強しこの店を地元で始めた。その話はまた別の機会で話したいと思う。カフェひまわりは笑いに厳しい町、大阪の難波グランド花月から電車の急行に揺られ25分ほど行った金剛という町で、スターバックスがない町ではあるが田舎者呼ばわりされると認められない人が多く住んでいる場所にある。そんな金剛駅を降り、少し路地を行った先にあるのが私の城、カフェひまわりだ。 そして今日も腰や肩が痛いと言いながら平日は必ず訪れてくれるすみえさんがカウンターでお気に入りのジャムトーストを頬張る姿を見ながら、出勤前のサラリーマンの朝のコーヒーを入れたり、ランチの準備をしたりと忙しい。すると、すみえさんが立ちながら 「ごちそうさま。」 「今日はすみえさんもうお出掛けですか?速いですね。」 「そうなのよ。今日は9時から内科に行って、その後は仕事が休みで家にいてごろごろしてる孫のお昼を作らないといけないから忙しいのよ。また明日―。」とすみえさんは去って行った。それと入れ替わるようにカランカラン扉を鳴らし入ってきたのは週に二回着てくれる青年だ。背が高くていつも礼儀正しいがいつも眠そうにしている。なぜ朝からそんなに眠そうなのかわからないがモーニングや早目のランチを食べ、食後のコーヒーを飲みながら本を読んで帰っていく。お客さんの中でも私の気になる存在だ。色々しゃべりかけてみたいが眠そうだらからいつも止めている。その謎の青年は今日は納豆トーストを注文した。納豆トーストとはうちの名物でトーストの上に納豆、チーズ、のり、マヨネーズをトッピングした物である。一度食べに来てからおいしいかまずいか判断して欲しいほど自信の一品だ。謎の青年は今日も食後のコーヒーを飲みながら本を読んで帰って行った。ひまわりは一年前にオープンし、朝の8時から夕方6時までの営業である。閉店準備をしながら、華の金曜日で賑わう金剛駅を抜けて家路についた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!