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「まあとりあえず1on1やってみて下さい…
倉田。やれるか」
「やれるよ」
倉田君はレギュラーの中でもかなり上手い。彼に勝てるようなら小久保君はうちのチームでもトップクラスだろう
倉田君と小久保君は軽くアップを済ませ、1on1を始める
二人とも速さと技術が私の息子と比べると段違いだ
倉田君と張り合うなんて…
やがて、倉田君が抜かれ始めゴールを決められる。結果として勝負は小久保君の勝ちだった
「そこまで!」
コーチの声と同時に倉田君は倒れ込んだ
「きっつー!コーチ、こいつだいぶ強いわ」
小久保君は誇らしげな顔でボールを突いていた
そのお母さんは三倍増しに誇らしげだった
「困ったなぁ。だけど、小久保君は多分即戦力になるわ…レギュラーで起用したいな」
その言葉は、誰かを外すという遠回しな言い方だった
すると、レギュラーの前川君が叫んだ
「それなら廣田と変えたら!?だいぶ強なるで!廣田パス回しも下手やし」
その一言に、今迄口を噤んできた私も遂にキレた
「前川君あんた真咲の気持ちもちょっとは考えたってよ!酷いと思わんの?!」
普段そんなに声を荒げたりしない私を見て皆はびっくりしていた
「…ごめんなさい」
前川君も半泣きで謝っている
「廣田さんごめん!純助も悪気はなかったんやと思う…真咲君ごめんなぁ…」
前川君のお母さんも息子に謝ってはいるが、心の中では私を鬱陶しがっているだろう
「僕はええで…変わっても」
息子が急に切り出した
「足引っ張るんは嫌やし、チームには勝ってほしい!上手い人がやるんは当たり前や!僕は正直メンバーの中で一番下手や…小久保君、試合出て」
そうハッキリ言い放った息子だが、握り拳を震わせていた
きっと言い知れぬ悔しさが胸の中にあったのだろう
だけど私はそんな息子に何も言えなかった
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