Y氏と古典的怪奇

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そこで初めて女の顔が見えた。髪はぬらぬらと濡れて月明かりを返し、その間から覗かせた顔は恐ろしいものであった。目は飛び出して垂れ下がり、眼球がゆらゆらと揺れている。口からは異常なほど長い舌が垂れていた。 「オ...マエ..ミ...タナ」 女は小声で何かをつぶやきながら、その細く青白い手でY氏の首を絞め始める。 Y氏は首を絞められながらもがいた。「助...け...て、だ..れに..も言わ..い..から...」 「ダレ...カ...ニ...シャ...ベッタラ...」 女は首を絞めながらも小声で喋り続ける。そしてY氏は段々と意識が遠くなっていく。 「...ヲ...ツ..レ...」 Y氏は女の言葉を聞きながら、意識を失った。 日が昇った頃、Y氏は小川のほとりで目を覚ました。 「夢じゃ...ないよな...?」そう思いながら川を覗くと、首に手の後が残っている。 昨晩の恐怖が蘇り、急いで荷物をまとめると一目散に帰宅した。 その後の1週間は、寝ても覚めてもあの女のことを思い出して恐怖していた。 夢でうなされる毎日であったが、人間というのは不思議なもので、Y氏は段々と恐怖を忘れていった。     
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