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Y氏と不思議な腕時計
時代はちょうどバブルの頃、Y氏は父が経営する会社に若きながら、重役としての地位を確立していた。
時刻は深夜、Y氏は会社の接待でしたたかに酔いながら、繁華街を歩いていた。
「お客さん、不思議な腕時計を買っていかないかい?」
繁華街の端、小汚い質屋の前でY氏はその店の店主に呼び止められた。
普段のY氏なら無視していただろうが、しかしそこは酔っ払い。フラフラと男の言葉に誘われて入店してしまうのであった。
「それで?その腕時計って?」
「これでさぁ。」
店主が取り出したのは、一見すると古ぼけた手巻き式時計のようであった。しかし、よくよく見ると時計の盤面に西暦と日付も分かるようになっていた。
Y氏はその時計を一瞥すると
「ああ、確かに日付まで分かるのは面白いね。で、何が不思議なの?」
「お客さん、これは時計であって時計じゃないんでさぁ。こいつは”好きな時間、この世から消えることができる時計”というシロモノなんです。」
「はぁ?」
いくら酔っ払いとはいえ、そんな突拍子もないことを信じるY氏ではない。
「まぁまぁ。信じられないのも無理ありやせん。百聞は一見にしかずってね。」
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