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そんな幸せが続く明くる日の朝、Y氏が出社前にニュースを見ているとどこかで見た顔が報道される。あの店主だ、とY氏は気づいてテレビの音量を上げた。報道によるとどうやら詐欺を働いていて逮捕されたとのことだった。
「でもこの腕時計は本物だったな。」と独り言をつぶやいた。
子供にも恵まれ、仕事にも恵まれたY氏の幸せは突然終わりを迎えた。
バブルの崩壊である。
その余波を受けて今まで順調だった会社の業績はみるみる内に右肩下がりになっていく。その頃から、いままで仲むつまじくしていた妻との諍いが増えていった。
ある日の夜、Y氏は妻と言い争いになり、カッとなって近くに置いてあった花瓶で妻の頭を殴ってしまう。
ふと我に返ったY氏は妻の肩を揺さぶる。
「死んでる...」
頭から血を流し、目からも血が出ている妻はぴくりとも反応しなかった。
「どうする...?どうする...?」
Y氏は必死に考え、気づく。あの腕時計があるじゃないか、と。
Y氏はバックに着替え、現金、そして金目になるものを詰め込むと、殺人の時効である15年後に腕時計をセットする。
「これで第二の人生をやり直すんだ。」とY氏は計画したのであった。
Y氏の視界が一瞬暗転し、目を開ける。
そこは自室などではなかった。
視界に入ったのは、赤い鬼が巨大な釜で何人もの人を茹でている、針山に追い立てられる人々、鳥に生きたままついばまれているといった光景だった。
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