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「望ちゃーん。稜なんか止めてさあ、俺にしない?稜よりずっと優しいよ?」
「お前なぁ、いい加減巫山戯るの止めろって。本気で怒らせると怖ぇぞ?あいつ」
いつものように誂ってくるタケ兄の仲間に、タケ兄が呆れた声を出す。
冗談だって分かってるから、僕は曖昧に笑って席を離れようとして。
オムハンバーグの皿がテーブルに置かれたと同時に腕を引かれて暖かな胸元に押し付けられた。
「てめ、幾ら冗談でもこれ以上こいつを口説いたらぶっ殺す」
低く険しい声に、困ったように苦笑するタケ兄に苦笑を返して長い腕の中から逃れた。
空いた皿を持ってカウンターに入り振り返ると、不機嫌全開の稜さんと気にする事無く笑って何かを云う彼、タケ兄はテーブルに肘を付いて面倒臭そうにコーヒーを飲んでいる。
その光景にくすりと小さく笑って、洗い物を持ってキッチンに入った。
優しい人達。暖かな場所。
ずっと独りだと思ってた僕がやっと見付けた、暖かくて優しい僕だけの居場所。
今度こそ失くしたりはしない。
僕は僕の力で、自分の居場所を守って行く。
だからもっともっと強くならなきゃ。
「望、洗い物終わったらソース作ってみるか?」
「はいっ」
キッチンに入って来た稜さんが僕の頭を軽く撫でる。
少し開かれた襟元から覗く、きらりと光るホワイトゴールドの輝き。
チェーンの先にはクリスマスに貰ったものとお揃いの指輪が下がっている。
後から同じ物を作って貰ったらしい。
稜さんらしくない行動に、それを見せられた時僕は驚きと共に嬉しくて涙を零してしまった。
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