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自分の番号が呼ばれる事なんか無いと思っていたオークション。 今日はいつもと違った。 誰の声か分からないが一度だけ、俺の番号が呼ばれた。 買い取られるような金額の提示ではなかったが、確かに俺の番号に入札をした人がいた。 その瞬間、俺は恐怖を感じていた。 このオークションで自分の番号が呼ばれたら、少なからず嬉しい気持ちになるんだろう。 と思っていた。 ここから出られるかもしれない、とか。 もしも、とても良い人に買い取られれば、自由になれるかもしれない、とか。 兎に角、何か、微かな希望が持てるんじゃないかって。 でも、実際は逆だった。 見ず知らずの誰かの物になる恐怖。 きっと自由になんてなれないんだろうという絶望感。 希望なんて微塵にも持てなかった。 誰に、どんな人に買い取られるかなんて問題じゃない事を初めて実感した。 誰に買い取られようと、どんな人に買い取られようと、自分が自分の物じゃなくなるんだろう。 その恐怖を実感した瞬間。 立いる事もやっとなほどのめまいを感じた。 何度もこのオークションのステージに立っている。 自分の番号に入札された金額じゃあ、落札されないのは分かっている。 分かっているはずなのに、次の番号と入札金額が誰かの口から発せられるまでの僅かな時間。 時間にして、たった数秒。 その数秒がとても長く、恐ろしい時間に思えた。 それと同時に。 早く次の番号が呼ばれてくれ、と、強く願ってしまった自分にとてつもない嫌気がさした。
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