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ある日、俺は、綺麗そうなスーツを身に纏った男に狙いを定めていた。
スラム街から少し出たとはいえ、この街とスラム街は目と鼻の先と言ってもいい場所なのに、そんな場所を、あんな綺麗なスーツで歩くなんて。よっぽどの馬鹿か間抜けなのだろう。
あんなやつはスラム街に住む俺らにとっちゃ絶好の鴨だ。
あれだけ綺麗なスーツを着ているのだ、財布にはそれなりの額のお金が入っていそうだ。
ついでに、高そうな腕時計や指輪なんかを付けていたら尚更都合がいい。
掏りには自信がある。
大抵のやつらは俺に掏られた事にも気付かず、何事も無いように横を通り過ぎる。
気付かれたって、ここらの道は熟知している。
相当足が速いやつでもない限り、捕まるなんて事は今までの経験上無いに等しい。
だから油断していた。
そいつは俺が思っていたような、絶好の鴨ではなかった。
そいつは待っていたのだ。俺みたいなガキがよってくるのを。
そいつは最近ここらで噂になっている人さらいだった。
スラム街に住む、俺みたいな孤児にとって、盗みは生きていく為の一つの手段だ。
綺麗そうな服を着ている人なんかは、俺らにとっては絶好の鴨。そういうやつは金を持っているから。
そいつは、そう思っている俺らの行動を利用していたのだ。
綺麗なスーツを着ていれば勝手に俺らの方から寄って来る。
あいつは待っていたのだ。
そうとも知らず、自ら自分に寄って来る、俺みたいな絶好の鴨を。
俺は待ち構えていたそいつに飛び込んでいった。
一瞬にして視界が変わる。目の前が真っ白になる。
薄れゆく意識の中、それでも必死に抵抗してみるが、どれほど動けているのか、自分では分からない。
そして。
次に目が覚めた時、俺の視界に映ったのは、全く見覚えの無い場所で。
服は全て脱がされていて、何も身に纏っていない状態だった。
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