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夕食時の時間帯以外でも旅館は忙しい。料理の部材調達から下ごしらえ、各部屋の清掃や準備等に従業員達は動き回る。
真菜は屋上で椅子をおいて腰かけていた。一人きり海を眺める。一人であっても時間を持てあますことがない。画用紙に水彩画で絵を描いていた。
見つめる海はまたたく間にその色を変える。まるで怒っているような藍(あい)色、深く吸い込まれそうな群青(ぐんじょう)色。
そして見るものをいやし、いたわる様にやさしい青色。優しく包み込んでくれそうな淡い水色。
その時々で顔色を変えた。季節や天気、また潮流によっても海は変わる。同じ色が二つとない。真菜はいくら見ていてもこの風景があきない。朝から晩まで見ていた。
幼い頃からそうだった。
真菜は先日の父と母の夫婦喧嘩を思い出していた。以前から母と祖母の仲が悪いのは知っていた。気高い祖母と頑固な母は折り合いが悪い。
でも、ここには母と来たかった。
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