祖母との再会

5/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 ふいに背後で声がした。祖母が真菜に近寄ってきた。 「やっぱり。小さい頃からよくここで絵を描いたりしていたからね」 そう言いながら、祖母が描きかけの水彩画をのぞき込む。 「うまいもんだね。将来は絵描きさんになれるかもしれへん」 「下手やけど、こうやっている時間が幸せやわ」 「そう思えるのはええ。それが一番やで」 祖母の口元がゆるんだ。  真菜はでしゃばる気などないのだが、それでも何か力になれないかと考えた。 「おばあちゃん、話があるんよ」 「あらたまってなんや」 真菜は先日、自宅で父と母が言い争った件をかいつまんで話した。  黙って祖母は聞いていた。  ひと通り話し終えると祖母がゆっくりと話し出す。 「真菜にまで心配かけてしもうたな。情けない話や」 理由をたずねようとしたが止めた。  恐らく、祖母自身も含めた大人達の全員のことを指しているに違いない。 「お父さんが継げないなら、私が大きくなってこの旅館を継いでもええよ。私は一人っ子やけどお父さんが会社員やからしがらみがない」 「何を言い出すんや。真菜は自分の好きな道に行ったらええ。それこそ絵描きさんを目指してもええんや」 「旅館の仕事しながら絵を描いたらええよ」 「そんなに甘いものではない。それにお母さんが反対しよるよ」 「それでもええ。私はお母さんの敵でもおばあちゃんの敵でもない。  でも両方の味方でもある。どっちについてもあかんけど、どっちにも仲良くして欲しい」 真菜は訴えるように必死だった。 「ありがとう」 真菜の手を祖母がそっと握る。真菜も握り返した。  その祖母の手からある感情が伝わってくるようだ。祖母も悩みを抱えているそんな気がしていた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!