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佐伯は真菜の持っている写生画に気づいた。佐伯は茶目っ気まじりに冷やかす。
「相変わらず上手やな。絵描きさんになってもおかしないで」
「おばあちゃんと同じこと言ってるわ」
「でも、私としては絵描きさんにならんでこの旅館を継いでほしいわ」
「私がこの旅館を継いでもええんよ」
冗談交じりに発した言葉を、真菜が真顔で返してきたので佐伯はたじろいだ。
だが、佐伯も真顔になる。
「できたらお父さんの太一さんが継いだ方がいい。女将さんももうすぐ七十歳や。最近では体の方も病気がちで万全やない。このご時世やから経営だって大変や。
それでも先頭に立って懸命にやってはる。みんながその背中を見ているからついて行っている。太一さんはその苦労を知っているはずやで」
真菜はうなずいた。
再会した時に祖母が小さく感じたのは真菜が成長しただけではなかったのかもしれない。
確かに祖母は気難しい一面がある。それでもいい訳せずに必死になってがんばる信念の人だ。
「おっと、よけいな事まで言ってしもうたわ。ほな、仕事に戻るで」
佐伯はそう告げると室内へあわただしく入って行った。
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