淡島神社の邂逅(かいこう)

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 夏の日は陽が西にかたむいても長い。夕暮れ時でもひざしの残りが照りつける。真菜は散歩に行って来る、と言い残し外出した。  行き交う自動車やトラック、船に荷を積む人、釣りをしている人、様々な人に出会う。海沿いの道を歩いていると人が働き、暮らしているのがよくわかる。  この港は大地と海岸の境界になり、山と海の接点になる。自然はやさしく美しい、また時にきびしい。  真菜がなだらかな坂を登ったところに目指す場所があった。鮮やかな朱色の鳥居が見えてくる。淡嶋神社だ。ほそうされた石畳の上を歩き進む。  神殿が見えてくる。神殿の柱や棚も朱色に染まっていた。格子(こうし)戸の薄い青色と白亜の外壁がいっそう朱色を引き立たせている。海のあらあらしい潮風にも耐え、朱色は深みをおびる。  春のひな祭りの季節には全国から集客があった。淡島神社は特に女性へのご加護がある。女性の病気や子授け、安産にご利益があるとされていた。真菜は境内の参道を右に進む。  ひな祭り発祥の地とされるだけに神殿廊下や床下、石段の上には数多くの人形が整然と飾ってある。人形は日本中から人々が持ち寄ったものらしい。  神殿の床下前にうずくまっている人の姿があった。細い肩幅の女性だ。気分でも悪いのだろうか、真菜が近寄る。その女性はさつきだとすぐにわかった。  どうやらすすり泣いているようだった。
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