プロローグ

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「そうそう、ご当地レンジャーの北海道編、ホワイトを仲間にした時のが面白かったですよね。牧草ロールに乗って、相手を説得するシーンとか、秋人さん似合いすぎてました」 「あー、あれ、俺が一度乗ってみたいって言ったら、せっかくだから、そういうシーンにしようってなって」 「結構な話題になったみたいですよね」 北海道の牧場では、『ブルーのように牧草ロールの上に載って写真を撮ろう』というスポットができているらしい。 「だな、『牧草ロールの上で告白しよう』とか、『プロポーズをしよう』という企画もご当地で立ち上がって盛り上がってるらしいぜ」 「牧草ロールの上に乗ってプロポーズ……」 地域が活気付くのは良いけれど、牧草の上からプロポーズされるのは、どうなんだろう。 つい、ホームズさんが牧草ロールの上でプロポーズしてくれる姿を想像してしまった。 黒いタキシード姿で真っ赤な薔薇を持ち、『あらためて言わせてください。葵さん、僕と結婚してください!』と手を広げる姿を──。 「…………」 そんなところでも、彼ならそれなりに様になりそうだ。 何よりどこであろうとプロポーズしてくれるのは嬉しく、思わず頬が熱くなる。 ……いや、冷静になろう。牧草ロールの上だ。遠距離恋愛が続くと妄想も乱暴になってくる、と私は額に手を当てた。 「葵ちゃん、赤くなったり青くなったりして、どうした?」 「あ、いえ、レンジャーも絶好調で、秋人さんもすっかりスターですね」 私は誤魔化すように笑いながらも、出会った頃のことを思うと、感慨深い。 当時、彼はドラマでは端役、ようやく舞台のお仕事をもらえていたという知る人ぞ知る俳優だったのだ。 私の言葉に、てっきり、『まーな、今や俺はもう大スターだ』と調子に乗ったようなことを言うかと思えば、秋人さんは何も言わない。 それどころか、少し苦い表情を浮かべている。
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