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「……秋人さん、どうかしました?」
「あーいや、何もない、大丈夫。それじゃあ、俺もそろそろ行こうかな」
と、コーヒーを一気に飲み干した。
「まだ来たばかりじゃないですか」
「ほら、こうして閉ざされた空間で葵ちゃんと二人きりなんてホームズに知られたら俺の身が危ないだろ」
いたずらっぽく笑う彼に、私も思わず笑ってしまう。
「店なんですから、当たり前ですよ。店長や上田さんと二人きりになることも、よくあるし、危なくなんてないです」
「いやいや、俺は類い稀なイケメンだし」
と、いつもの調子の彼に、少しホッとした。
「そんじゃ、もしホームズが帰ってきたらよろしくな」
「はい、秋人さんもお仕事がんばって」
私がそう言うと、秋人さんは「おう」と手を上げて、店を出て行った。
再びカランと鳴るドアベル。
歩き去っていく秋人さんの背中は少し憂いを帯びていて、私はそっと小首を傾げた。
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