プロローグ

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――― ――――― ―――――――― 寺町三条にある小さな骨董品店『蔵』の店内は、今日も静かだ。 アーケードはいつも通り賑やかなのだが、この店は外の喧騒が嘘のように穏やかであり、優しく流れるジャズと、柱時計の針の音、自分が本を開く音が微かに響いている。 一人で店番をしている大学生の私・真城葵は、カウンターで美術資料本を読んでいた。 店内の本や資料は好きなだけ見ても良いと言われているため、最近は仕事が一段落し、ふと時間ができた時にこうして美術資料を拝借し、眺めることが多くなった。 私に古美術のレクチャーをしてくれていた『ホームズさん』こと家頭清貴さんが、この店を離れて、もうすぐ一年。 その間、私は随分と古美術に触れる機会が減ってしまった。 そうなると、寂しいというより焦りに近い気持ちになり、市内や関西圏の美術館に足を運んだり、こうして美術資料に目を通している。
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