プロローグ

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「……これ、東京国立美術館にあるんだ」 関東圏の美術館に展示されている美術品を見付けると、悔しさを覚える。 埼玉に住んでいた時、どうして自分は美術館に行っていなかったのか。 当時は興味がなかったから、仕方がないのだろけど。 自分が美術品や骨董品に興味を抱いたのは、この店でバイトを始めてから……ホームズさんに出会ってからだ――。 若くして類稀な鑑定眼・観察眼を持ち、その鋭さから『寺町三条のホームズ』と異名を取る鑑定士見習いの彼は、今、見聞を広げるための修業に出ていている。 それでも、年末年始は京都に戻り、この『蔵』で働いていたのだけど正月が終わるなり、新たな修業先に行ってしまった。 今度は近い所なので寂しくはないと思っていたのだが、なかなか忙しいようで、会えてはいない。 仕方ないか、と目を伏せたその時、『カラン』とドアベルが鳴ったことで、私は本を閉じて、顔を上げる。
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