プロローグ

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「いらっしゃいませ」 私は、扉に向かって笑顔を向ける。 そこにいたのは、このレトロな空間とは、ミスマッチな華やかな青年。 「おっす、葵ちゃん。絶世の美男子を一人お届けに参りました」 ――秋人さんだ。 「秋人さん、いらっしゃいませ」 彼の名前は梶原秋人。 出会った頃は駆け出しだったが、今やときめく名の知れた俳優だ。 元々、目を惹く外見だけれど、最近さらに洗練されたように思える。 秋人さんがここに来るのは久しぶりだった。 彼はそのまま店内を歩き進め、躊躇もせずに私の対面に腰を下ろす。 「お久しぶりです、秋人さん」 「おう。新年会以来だな」 「いつ京都に帰ってきたんですか?」 「ついさっきだよ。夕方、大阪で打ち合わせがあるんだ。でっ、その前にもしかしたら、ホームズがここにいるかと思って来たんだけどよ」 「あっ、ホームズさんは、今東京ですよ」 私はコーヒーの準備を始めようと、給湯室に入った。 「なんだ、あいつ、今、東京に来てるのかよ」 背中に秋人さんの不満げな声が届いて、思わず笑ってしまう。
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