1人が本棚に入れています
本棚に追加
悩んでいたといっても、現状に不満や不安が有るという事ではない。就職活動も終わり、卒業論文もほぼめどがついた。大学サークルの人間関係も上手くいっている。ただこのままで良いのかなと最近考える時間が多くなった。来年から学生ではなくなり社会に出て社会人になる。社会人になるという事は、今までのように小学校から中学、中学から高校、高校から大学といった環境の変化とは訳が違うだろうし、実際そうだろう。良いと思って入った会社も、入ったら自分が思っていた会社と違う、何て事はよく耳にする。これから本格的に資本主義の世界に入り、毎日行きたくもない会社に通い責任を負わされ上司から怒られる日々を送るのかと思うと本当にこのままで良いのかと思うのだ。その生活に入る前に何をしとくべきなのかが分からず悩んでいる。よく春になると新社会人が街頭インタビューでもっと遊んどけばよかったという。"遊ぶ"といっても何をして遊ぶ事を指して
いるのだろう。友達と朝まで酒を酌み交わすことだろうか、それとも女の子と遊び呆ける事だろうか。いっときそのような放蕩をしたが、残ったのは虚無感とお札の無い財布だけだった。
そこで保吉は今自分が何をしたくて、何をするべきなのかを見つける為にこの旅行を計画したのである。そこには社会人に成りたくないという、現実逃避の気持ちもある。
保吉は先週の日曜日に近くの本屋で文庫本3冊と日本地図を買った。家に帰り机の上に大きな日本地図を広げ、じっと見つめて自分がいくべき場所がどこか考えた。地図を広げて思ったが、おそらく場所は関係ない。どこか自分が知らないとこに行き、自分が知らない人と喋る事で答えが見つかるような気がする。
22歳の秋という時期は時間を持て余し無駄に悩み、無駄に考え過ぎる時期なのだ。悩めるという事はそれだけ時間に余裕があるという裏返しなのかもしれない。そして今日この古民家を見つけ出し電話をし予約をした。
最初のコメントを投稿しよう!