大人の家出

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出発の朝。保吉は目を覚ましカーテンを開け外を見る。まだ外が薄暗く分からないが、遠く向こうの雲が朝日の色に染まっているのが見える。天気は良さそうだ。保吉は軽く朝食を済ませ、黒いボストンバックの荷物を再度確認し、先週買った文庫本3冊をボストンバックのポケットに入れてベージュのチノパンにノリが効いてパリッとした白い綿シャツ。その上からフィデリティーのヨットパーカーを羽織り外に出た。 最寄駅から都心へ行く電車に乗り、そこから高速バスで旅館へ向かう。早朝の都心は既に人がごった返し、各々小走りで自分の目的地へ移動する。それはまるで資本主義を凝縮したような光景だった。保吉はバス乗り場の待合室に座り、ボストンバックのポケットから文庫本を取り出して本を読みながら時折その光景を眺める。駅はせわしなく人を乗せては吐き出す。しばらくするとバスが止まり運転手が降りて来てバインダーにとじた紙を見ながら一人一人名前を呼ぶ。呼ばれたら切符を見せて乗り込む、まるで小学校の出席確認みたいだ。保吉の名前が呼ばれ切符をだしてバスに乗り込む。乗客は保吉合わして10人ちょっとで外のせわしなさが嘘みたいに静かだった。 バスが動き出す。 保吉は窓ガラスに写る自分を見ながら3日後の自分を想像する。何か心境の変化は生じているだろうか、何かを掴んで再びバスに乗っているだろうか。そんな保吉の気持ちはよそにゆっくりと着実にバスは保吉を運んでいく。     
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