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バスは高速道路のサービスエリアで休憩を挟む以外は黙々と目的地へと進む。その間保吉は本を読んだり、ウォークマンで音楽を聞いたり、外の景色を見ながら過ごした。バスから見る景色は別に珍しいものでもなんでもない、ただの高速道路だ。一定間隔で街灯や標識があって、隣の車道には大きなトラックや他の車が進んでいる。バスが進むにつれてそのナンバープレートが遠い県外のものになったりしていくのを見ると自分が今遠い所に来ているのだと実感する。早朝のバスに乗ったので、お昼過ぎには目的地の駅に到着し保吉は降りた。バスは保吉を降ろすとすぐ次の目的地へと出発する。
知らない土地にボストンバックと自分だけが取り残される。これが旅の醍醐味かもしれない。
電話で話した旅館のオカミによると、この駅からバスを乗り換え、5つ目のバス停を降りて徒歩10分らしい。時間はたっぷりある、ゆっくり行こう。眠そうな駅員にバス停の場所を聞きバスに乗る。言われた通り5つ目のバス停を降りる。有るのは畑と田んぼと山だ。少し迷って15分くらい歩くと旅館というか古民家が見えて来た。
玄関の前には庭が広がっていて白い砂利が敷き詰められている。保吉が玄関に向かうとジャリジャリ音がする。玄関先でインターホンを探すが見当たらないので、ドア越しにすみませんと声をかけるが反応がない。ドアを横に引くと鍵がかかっていない。少しためらいながらも中に入ってみる。 中に入ると古い家特有の匂いがした。まるで夏休みにお婆ちゃん家に泊まりに来たみたいだ。この匂いを嗅ぐとどうしてあんなに落ち着き優しい気持ちになるのだろうか。
さっきより大きい声ですみません、と声を出すと奥から旅館の主人だろうかノソノソ出て来てお待ちしておりました、と言って玄関近くの階段を登り部屋へ保吉を導く。部屋につくと保吉はボストンバックを置く。
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