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寒くなり始めた空の下、またベランダに足を出して、ゴミ袋を被せられていた。今日は厚手の靴下を履いている。
「はーい。動かないでくださーい」
種が切った髪が床に落ちた。前に切った日からもうこんなにも伸びたのかと思った。俺の体が生きている証拠だ。体中についた痣も癒えようとしている。
床に広がった髪を種が地面に落とした。雑草の上に俺の髪がパラパラと落ちた。
「はーい、次は爪ですよー」
種が楽しそうに俺の横に座った。
そして俺の指を取り、パチリパチリと音を出して、また生きてる証を床に落とした。
種が指一つ一つの爪を丁寧に切ってくれる。
顔にかかる髪が日に照らされて光る横顔は、自分の爪を切るよりも真剣な顔をしているように見える。
まるでこれを自分の役目だと思っているように。
種は俺がここに来るまではいつもどうやって過ごしていたんだろう。ずっとここに一人でいるんだろうか? いつから?
そういえばこの家には不思議なことがたくさんある。
そんなことを考えている時だった。突然インターフォンが鳴った。
種が驚いて顔を上げた。
「……誰?」
この家に来てから一度も聞いたことのない音だった。
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