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「正直、あんたの家にはこれ以上介入したくないんだけど」
姉が顔をしかめながら言った。
それはそうだ。誰だってあんな家と関わりたくないだろう。こんな俺をここにおいてくれているだけで奇跡だ。
「あの人はだめだよ。きっとゾンちゃんはあの人から逃げ出したはずだよ」
種がずっと俺の袖を掴んでいる。……どうして種には分かるんだろう?
無くしたはずの記憶が徐々に呼び覚まされていた。
あの日、突然両親がアパートへやって来て、俺を家へ連れ戻そうとした。俺はそこから死にものぐるいで逃げ出した。だけど車で俺を探していた二人に見つかり、父親は車をそのままぶつけようとしたんだ。あの女は隣に座っていた。
走り去る車の後ろ姿を思い出した。
あの女が父に命令したんだ。あの女ならやりかねない。そうやっていつも俺を恐怖で支配しようとするからだ。
そして車を避けて倒れていたところを種に拾われたんだ。
でもそうだとすると俺の居場所は晃が捜索願を出す前から知られていたことになる。俺はとっくにあいつらに見つかっていたんだ。
あの女が俺を見失うことは絶対にないんだ……。
「で、あんたはどうしたいの?」
「…………」
あの女はきっとまた来るだろう。俺を自分の物だと思っているから。父親がいなくなった今、俺をその代わりにするつもりなのかもしれない。
「ゾンちゃん?」
種がまた袖を引っ張った。
「…………」
あの女は俺がいる限り何度でもここに来る。
居場所を知られてしまったならここにはいられない。種たちにこれ以上迷惑をかけられなかった。
「まさか、あんたはまたあの部屋に閉じ込められて殴られるつもり?」
「…………母さんは自分ではそんなことしない。……だから、きっと大丈夫」
「だめだってば、ゾンちゃんっ!!」
「…………」
種をもう二度とあの女に会わせたくなかった。あの女のせいで種を泣かせたくない。
俺はまたこの家を出て行くしかなかった。
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