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二人でソファに座って懐かしい味のクッキーを食べていた。種はさっきまでやっていたゲームを投げ出して俺に食べさせ、俺は口を開けて待っていた。交互にキスもくれる。俺は貪るように両方を食べた。
心も体も両方がそれを求めていた。
もう我慢する必要がなかった。俺はずっと愛を求めていたのかもしれない。そのことにやっと気が付いた。
種が俺の手を握って笑った。
「ゾンちゃんがここに来てくれて良かった。本当はずっと一人で寂しくて辛かったけど、でもずっと俺だけは変わっちゃいけないと思ってたんだ」
「…………」
「でもね、ゾンちゃんと一緒にいるとゾンちゃんのことしか考えられなくなって心が楽になったんだ。だからね、ゾンちゃんは元気でいてくれるだけでいいからね」
「…………」
その種の言葉にある人のことを思い出した。懐かしいあの人。
「……ばぁちゃんも、同じこと言ってた」
種がキョトンとした顔をした。
「ばぁちゃん?」
「……隣の家に住んでたばぁちゃん」
小さな頃に優しくしてくれた唯一の大人の人。俺は親に殴られた痕をばぁちゃんに隠すのに必死だった。ばぁちゃんは俺に元気でいてくれるだけでいいと言ってくれたから、泣き顔も見せたくなかった。
でもその思い出も随分と遠くに行ってしまった気がした。
体が新陳代謝をするように思い出も塗り替えられていくみたいだった。
俺はそっと種にキスをした。
「…………」
種もそうだといい。
いつか辛い思い出が塗り替わって、二人で一緒にこの家から羽ばたいていけるといいと思った。
おわり
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