29(承前)

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 その夜、タツオはジョージを展望デッキに呼びだした。明るい照明を浴びた北富士演習場の宿舎や施設が放り投げたサイコロのように雑然と広がっている。遠い不二山の稜線は夜空に溶けこむように黒々と静まっていた。  すこし肌寒いがタツオはホットコーヒーをふたつ買い、ジョージをテラスのテーブルに誘った。 「明日の戦闘訓練の準備をしなくてもいいのかい。これからは毎回順位入れ替え戦だときいて、どこのチームでも目の色を変えているよ。とくに2班の天童くんとかね」  ジョージがいつもの落ち着いた笑顔でそういった。余裕綽々(しゃくしゃく)というのはこういう表情だろうか。コーヒーを渡してタツオはいった。 「ジョージはほんとにうちのチームが2班なんかに後(おく)れをとると思ってるのか」
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