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泥水を口に運ぶ。渋い顔をする。
ここのコーヒーはまずい。苦味だけで、酸味?とか、コクの深さ?とか、香りの味わい?とか、とにかくそういったものがない。店長の趣味だとか、オリジナルブレンドとかっていうものらしいけど、とにかくまずい。
白い断層は中に赤い宝石を含んでいる。暴力的な甘さは苦味を消し去っていく。
この店オリジナルのショートケーキ。甘くて甘くて、これだけで食べたら吐き気と頭痛が襲ってくるくらいの、甘すぎるショートケーキ。
にがすぎるコーヒーと、甘すぎるケーキ。
これが、わたしの「いつもの」。
「いつもの」ってカウンターで言えば、これが出てくるくらいには通い詰めた。
でもこれは、この店へのご褒美。彼女を雇い続けてる店長へのほめことば。でなかったら、こんな店には一生に一回も来ないだろう。
そう、彼女。私のメインオーダーは彼女なのです。
眩しい制服姿。可愛らしい笑顔。よく通る声。ストレスだらけのこの世界に舞い降りた天使。
彼女が品を運んでくれる。それでだけで幸せで、嬉しくて、舞い上がってしまいそう。でも、どうしても熱くなって、赤くなって、頭が沸騰して、長居はできなくて。結局、居心地が悪くて。
でもいいんだ。これでいい。これがいい。
多分、彼女がいなくなるまであの喫茶店に通うだろう。
平凡なドアをくぐって、いつもの端の席に座って、彼女を見つめて、彼女の笑顔に恥ずかしがって、「いつもの」を急いで消費して、そそくさと出て行く。
多分、明日も、来週も、来月も、来年も。
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