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これは偶然なのだろうか。
あるいは小さな奇跡と呼べるものなのかもしれない。
思えば、自分が命を奪った河本さんは立派な人だったのだろう。
それは残されたその家族が教えてくれる。
”許す”という行為は並大抵にできるものではない。
けれど、残された河本さんの家族は自分を拒絶しなかった。殺した張本人であるこんな自分を、それでも毎年のように迎え入れてくれる。
それがどれだけ尊い精神のものであるか、それがどれだけ得難い事柄であるか、自分はそれを今知ったのだった。
どんな立場の人間にだって、物語がある。
それはきっと、誰かが誰かを支え、寄り添う事で紡がれる、そんな愛の物語なのだろう。
愛する人を失った誰かと、その誰からから愛する人を奪ってしまった誰か。
単純な話ではない。
そのどれもが複雑で、またどれもが救いのある結末とはならないのだろう。
それでも、人は、自分以外のその誰かを信じて歩もうともがく。
秋晴れの中を列車は緩やかに進む。
人と人がそうやって寄り添い、共にある事で生まれるような――そんな儚く、そして大切な輝きをその内に宿しながら。
やがて交わり、大きく掛け替えのないものに膨らむいつかのその日を目指し、誰もが歩みを止めない。
陽光あふれる海辺に沿うように、列車は走り続ける。
~fin~
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