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正午近くになったせいか、次の駅からまた人が一気に乗り込んできた。
家族の居る座席に戻り損ねた少女は、サラリーマンの二人連れに押しやられる形で自分の正面へ。
先ほどの事もあってか、こっちは妙にぎこちなくなってしまう。あの女性への対応を鑑みると、いい歳した自分よりもよっぽど立派に思えてしまう。
普段ならもう少しマシな対応ができたろうにと、少しだけ自身に言い訳をする。今日という日だけは、どうあっても平常心でいられないせいだ――と。
日本では、人には迷惑を掛けないように生きなさいと教える。海外では、人は誰かしらに迷惑を掛けて生きるものだから、それを許してあげなさいと教える。
人間は決して完璧には生きられない。だから、そちらの方がより尊い事なのだろう。
けど、それが取り返しのつかないものならば、一体どうすればいいのか……。
この路線は海辺を通る。選択肢が他にな無いとは言え、この海岸に併走するような線路はお気に入りだった。
しばらくはまた、頭を空っぽにして窓から見える海辺を眺める。
日差しも、車内の軽い賑わいも、全てが遠い事のように――そんな意識を隔てる靄へと、また没入していく。
「えーっ!? うっそ、ひどい! 何それぇ?!」
その周りをはばからない声が聞こえたのは、それから間もなくしてだった。
喋っている乗客は他にも居たが、耳障りと呼べる程のその大仰なテンションの声は車内の注目をこれでもかと集める。
しかし喋っている本人達にそれを気に留める素振りはまるでない。
ドア付近に、流行りの服を着たいかにもな女子大生らしい三人組。見れば、真ん中の一人が右手首を包帯で包んで、これ見よがしに片方の手で支えている。両脇の二人はそれを指しながら、ボリュームを気にせず「ひどい」や「信じられない」と相槌を打っている。
話を聞くと、どうやら真ん中の子が自転車に右手をぶつけられたと。
「それって『ひき逃げ』じゃないの?」
「うんまあ、『ひき逃げ』っていうか『あて逃げ』」
「マジ許せない! 警察には言った?」
「被害届は出したけど、なんかこういうのって、目撃証言だけだからまず捕まらないって」
「はあ? ありえない!」
「ねえ、その”犯人”ってどんな風だった?」
「紺のパーカーと帽子被ってた。たぶんフツーのおっさん?」
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