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気付けば、その父親がこちらの席へと移って来ていた。
そうして、堪えられず涙ぐんでしまっている娘の隣に座り、その肩をそっと抱く。
「ごめんな……。ずっと辛い思い……させてたな」
謝っているようで、しかし、その口調はまるで小さい子供をあやすようだ。
後ろの母親の顔も今にも泣き出しそうで、中学生くらいの弟も誤魔化すように鼻を啜っていた。
彼らにしか知り得ない、彼らだけが歩んできた日々。
「でもですね、あの、聞いてください。今日なんです、今日初めてなんです」
けれど、赤い目を拭って、少女は努めて明るい声を出した。
「13年目の今日、やっと……相手のおじさんが……」
そこでまた、しゃくりあげるような嗚咽。
言葉にならないその先を、どこまでも穏やかな表情の父親が継いだ。
「これも何かの縁なんでしょうか。当日になって、この子がどうしてもついて行くと言い張り、それで家族全員で相手のお墓参りへ。それを見た向こうの旦那さんが、『家に寄っていってくれ』と仰ってくれて……」
「帰りしなに、こんなに沢山のお土産までもらったんです」
母親が泣き笑いのような顔で言って、抱えたその紙袋を持ち上げる。
見事な色をした、形の良いその蜜柑達。
さっき味わったあの瑞々しい甘さが、また口の中に。
こんな偶然が、あるものだろうか。
吸い込んだままの息を吐きだす事ができない。
「いや、見ず知らずの方にいきなりこんな話……。すみません、迷惑でしたよね」
申し訳なさそうに頭を下げるその父親。
線の細い、優しげな風貌だった。けど年齢以上に老けて見せるその皺の中に、隠しきれない苦労の跡が見えるようで、こみ上げてくるものがあった。
だから自分は、たどたどしい言葉であっても、口にしなければと思った。
「……自分もなんです……自分も事故を起こして、相手を死なせてしまったんです」
信じられないという眼で、彼らは自分を見つめた。
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