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第3話 ヤマアザラシの一生
文芸部の部室は図書室の隣にある図書管理室で、文芸部の顧問は図書室を管理する栗林先生が受け持っている。先生というけれど司書の資格を持った契約社員的な奴らしくて、特に勉強を教えてくれたりはしていない。専攻は化学で、見た目に寄らず日々実験に明け暮れる日々だったと聞いたことがある。普段ふんわりしてるから務まるのか不思議だけれど、それはそれ、これはこれって感じなんだろう。
「落ち着いたかな……?」
「す……すみませんでした……」
えぐえぐと涙をこぼしながら私はその栗林先生に慰められていた。
久しぶりに足を踏み入れた文芸部の部室・図書管理室。
私が入部した頃と殆ど何も変わっておらず、新しく入荷した本の他に先生の私物などが溢れかえっていて、私が落ち着いたのを見計らうと先生はケトルで沸かしたお湯をポットに注ぎ、紅茶を淹れ始める。
立ち込めた甘い香りに、私があの人にぶつかった時嗅いだものを思い出す。
ーーこの匂いだったんだ……。
ぼんやりと反対側の隅で椅子に腰掛ける姿を追って、目が合いそうになり慌てて逸らす。
ドキドキと、やっぱりこの人は苦手だと心臓が高鳴っていた。
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