185人が本棚に入れています
本棚に追加
そのためすぐには、瑠衣の申し出を信じられないらしい。
そこまで自分は信用がないのかと、瑠衣は肩を竦めてみせる。
……まあ瑠衣にも、その自覚はあるのだが。
「あ、サボろうとしてるわけちゃいますよ。その証拠にー」
立ち上がった瑠衣は、迷う様子なく歩き出す。
真っ直ぐ、蒼汰の席に向かって。
蒼汰の横に立つ瑠衣を、教師と生徒らがきょとんとしたように見ている。
だが瑠衣と共に視線を向けられている蒼汰は、それどころではないのか、瑠衣に顔さえ向けはしない。
そんな蒼汰の腕を、瑠衣は掴んだ。そしてそのまま、半ば無理やり蒼汰をイスから立ち上がらせる。
「え? あ、山上さ……?」
「沢城に連れてってもらうんでー。沢城いるなら信用できるでしょ?」
おどけたような口調で言えば、教師は少しだけ、悩むような様子を見せた。しかしすぐに、納得したように頷く。
「……分かった。じゃあ沢城、山上のこと頼むぞ」
そう教師に言われた蒼汰は、しかし事態が飲み込めていないらしく、教師と瑠衣を交互に見やった。
「え、えっと」
「せんせーったら俺のこと信用してくれてないー」
「普段から信用されるような行動をしていないお前が悪い」
「あははー、正論ー。とりあえず、それじゃー」
ぐいぐい蒼汰を引っ張って、瑠衣は教室を出た。
どの教室も授業中は扉が閉められていて、廊下は静かだった。昼休みの喧騒がまるで嘘のようだ。
「あの、山上さん、気分悪かったんですか? 大丈夫ですか?」
歩き出す瑠衣に連れられた蒼汰が、心配そうに瑠衣へ問いかけた。
そんな蒼汰へ振り返った瑠衣は、呆れたように目を細める。
「アホ。気分悪いんはあんたやろが」
「え? いえ、僕は別に……」
「睡眠不足だって体調崩す原因の一つや。ええからおとなしくついて来い」
強めの口調で言えば、言葉を続けようとした蒼汰は押し黙った。
瑠衣がこうやって口調を荒げることは少ない。そのため気圧されたらしい。
蒼汰の腕を掴んだまま、瑠衣は隣校舎の一階にある保健室へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!