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「ん、は……」
驚愕に目を見開いた瑠衣は、微かに開かれた蒼汰の唇から、白い液体が少しだけどろりと垂れるのを見た。どうやら、すべてを飲み下すことはできなかったらしい。
蒼汰もそれに気付き、指先で垂れたものを拭う。
「山上、さん」
そして蒼汰は顔を上げた。
一仕事を終えて疲れたからだろうか。瑠衣を見上げる蒼汰の表情は、どこか力の抜けたとろんとしたものだった。
そんな瞳に見上げられて、ぞくりと瑠衣の背に震えが走る。
それは先ほどの、快感からくるものとは違っていた。
普段偉そうにしている蒼汰が、自分にかしずいている。まるで女みたいに、瑠衣のモノを愛撫し、吐き出したものを受け止めて……。
あの、蒼汰が。
そう思うと、よく分からない感情が瑠衣の胸の内に湧き上がった。胸が締め付けられるような、苦しいような、それでいて嬉しいような。どろどろとしたその感情は――多分、征服欲とか、支配欲とか、そういう類のものだ。
瑠衣が達したのは、蒼汰の愛撫だけが理由ではない。
あの蒼汰の屈辱的であろう姿に、色々な意味で興奮したのだ。
荒い呼吸で肩を上下させながら、瑠衣は無言で蒼汰を見下ろしていた。
対して蒼汰は、ゆっくりと立ち上がる。
「……これで、黙っていてくれますね? 僕も言いませんから。貴方が僕に簡単にイかされたなんて」
蒼汰の声は、先ほど漏らしていた甘い声が嘘のように、冷静ないつも通りのそれだった。
「んなっ、か、簡単て……!」
「それでは」
「ちょ、ちょお待て!」
羞恥と怒りで頬を赤くしながら瑠衣は、自分を押し退けるようにして店へ戻ろうとする蒼汰の肩を掴んで引き止める。だが蒼汰は、そんな瑠衣の手を振り払った。
「その格好でそれ以上出てくると、大変なことになりますよ」
さらにそう言われて、瑠衣は今の自分の格好に気付く。すべてを吐き出してくったりとしたソレを、慌てて下着とズボンの中に隠した。
そうやってズボンを直している間に、蒼汰はさっさと、歩いて行ってしまう。瑠衣が追いかけて行ったときにはもう、裏口から店の中へ戻ってしまっていた。
それ以上蒼汰を追いかけることもできず、瑠衣はしばらくの間、その場から動くことができなかった。
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