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 ふあ、と山上瑠衣は、隠すこともせずに大きな欠伸を漏らすと、涙の浮かんだ切れ長の目を手の甲で擦った。 「んー……」  再度欠伸を漏らし、瑠衣はコンクリートの地面に胡坐をかいた状態のまま、頭上を見上げる。二重瞼の双眸を細める動作に、長い睫毛が強調されていた。  黙っていれば、線の細い美少年。けれど眠そうに間の抜けた表情が、彼のそんな雰囲気を台無しにしている。 「眠いわー……」  頭上に広がる青空には、真っ白な雲が連なって浮いていた。太陽の光に照らされた雲は、風に流されてその形を変えていく。  晴れやかで爽やかな天気。春と夏の中間である今の時期は、ぽかぽかと気温もちょうどいい。柔らかな日差しは、例えるなら、まるで自然が生み出したシーツと布団だ。 「えー天気やなー」  気の抜けた声で呟きながら、瑠衣は不意に、後ろ向きに地面へ向かって倒れた。耳を隠してしまう長さの黒髪が、ふわりと空気の抵抗で浮く。寝転べば、学ランの背中と後頭部がコンクリートを擦った。  グラウンドからは、体育の授業を受けているらしい生徒の声が聞こえてくる。また、それとは別に、時折笑い声なども響いていた。きっと、窓を開けたまま授業を行っている、どこかの教室から漏れ出しているものだろう。  近すぎず、遠すぎず。適度な距離から聞こえてくる日常生活の音は妙に耳に心地いい。  それが眠気を誘って、両腕を頭の後ろに回して枕代わりにしながら、瑠衣は睡魔に身を委ねようと両の目を閉じる。 「ほんま、ええお昼寝日和やわー。授業受けるなんてアホらしくてしゃーない」  誰にともなく呟くと、体から力を抜く瑠衣。そのまますやすやと、穏やかな寝息を立て始める。  ……しかし、夢と現の狭間で瑠衣は、自分一人しかいないはずの屋上で、重い金属音を立てながら開く扉の気配を感じ取った。
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