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「っ」
我に返った瑠衣は、勢いよく首を左右に振った。
「なんやねんこれ」
瑠衣はゲイではない。男にあんなことをされても、全く嬉しくない。
それでもイってしまったのは――相手が蒼汰だったからだ。蒼汰の弱みを握り、彼の弱点を知った興奮が、変に快感と直結してしまっただけなのだ。それ以外考えられない。
第一、あれは瑠衣が望んだことではない。蒼汰が勝手に誤解したのだ。
瑠衣がゲイだと。その上で体を要求されたと。だからあんな行動に出た。
「……あいつの誤解は解いておかな」
瑠衣は普通に女の子が好きだ。彼女がいたことだってある。経験自体は少ないが、そういうことをしたことだってある。
そんなことを考えながら校門を抜け、グラウンドの横を通って、瑠衣は下駄箱へ行く。
そしてそこで、ちょうど登校してきた蒼汰とばったり会った。
「……あ」
「っ、さわ、しろ……」
「……」
動きを止めた瑠衣から無言で顔を背けた蒼汰は、手早く靴を履き替えると、教室へ行ってしまう。
その際、蒼汰の顔は見えなかった。けれど髪の隙間から覗く耳や首が真っ赤になっているのを、瑠衣は見逃さなかった。
それは、昨夜のことが夢でもなんでもない現実なのだと、瑠衣を否が応でも自覚させる。
蒼汰につられて頬が熱くなるのを感じた瑠衣は、チッと小さく舌打ちした。
「……これは一回、確認せなあかん」
* * *
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