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「やっぱり。今日もここで……屋上でサボろうとしていましたね。山上瑠衣さん」  そして呆れを含んだその声を聞いて、ぴくりと嫌そうに形のいい眉を動かす。  その間にも声の主は、ゆっくりと瑠衣に歩み寄っていた。 「僕ら、もう三年生なんですよ? これで何度目ですか?」  目を瞑っていても、自分に陰が差すのが分かる。仁王立ちになっている彼の姿をありありと想像できて、大袈裟なほどの大きな溜め息を吐き、薄らと瑠衣は目を開けた。  自分のすぐ隣には、やはり予想通り、両手を腰に当てた彼が立っていた。  切り揃えられた黒髪は、よくいえば爽やか。そうでなければ、生徒手帳などに載っている模範的なそれ。  整った顔立ちは、同い年(十七、八歳)とは思えないほど大人っぽい。  こんなに気温は暖かいのに、学ランのボタンを上まできっちり留めている。上履きは定期的に洗っているのか、色も形も綺麗だ。――ちなみに瑠衣の上履きは、傷も汚れも放置して形の崩れた、お世辞にも綺麗といえないものである。彼のそれと比べると雲泥の差だ。  寝転んでいる瑠衣を見下ろしている彼の表情は、眼鏡の下で、不機嫌そうに歪んでいた。 「……わざわざフルネームで呼ぶなんて、ほんま沢城蒼汰君は厭味というかなんというかー」 「厭味? どこがです?」 「ほら、それ。眼鏡押し上げるその仕草が厭味ったらしいわー」  銀縁の眼鏡を指先で押し上げた彼――沢城蒼汰は、瑠衣の指摘に、形のいい唇をへの字に曲げる。 「厭味なつもりはありません。ずれたのを直しただけです。……それより、寝転んでないで起きてください。行きますよ。もう授業は始まっています」  細くて骨ばった指が、枕代わりの瑠衣の腕を掴んで引っ張った。  持ち上げられそうになって、瑠衣は駄々を捏ねる子どものように首を左右に振る。
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