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 グラスの中には、薄くて淡い黄色のカクテルが注がれており、そこには氷とミントが浮いていた。口に含めば、炭酸と、爽やかな味が広がる。ジンジャーエールとライム、ガムシロップで作られたそれは、ノンアルコールのモスコミュールだ。  蒼汰のチョイスで作られたそれは飲みやすくて、ついついペースが早くなる。ノンアルコールなので酔うことはないが、待っている時間を考えると、あまりがぶがぶと飲むわけにもいかない。  おつまみの、一口サイズのチョコレートを食べながら、瑠衣はスマートフォンを弄りつつ、店内の落ち着いたBGMに耳を傾ける。 「……あの、山上さん」  そんな瑠衣へ、おずおずとそんな声が掛けられた。  顔を上げれば、カウンター越しの目の前に蒼汰が立っている。 「あっちの接客終わったん?」  バーテンダーの仕事は、注文を聞いてドリンクを作るだけではない。来てくれたお客さんと適度に会話をして楽しませるのも仕事の一つだ。  自分には真似できないと、他の客と話す蒼汰を、瑠衣は時折観察していた。会話する様子がたどたどしいように見えたのは、まだ働き始めて日数が経っていないからなのか、それとも、瑠衣の目を気にしてか。……といっても、瑠衣にはどうでもいいことだったが。 「はい。……あの、僕もうすぐ上がるので……その」 「あ、そうなん? じゃあお勘定お願い」 「はい」  グラスに三分の一ほど残っていた中身を飲み干して、瑠衣はポケットから財布を取り出した。蒼汰へ金を払う。 「(……一旦、外へ出てください)」  瑠衣へお釣りを返しながら、蒼汰は他の客や従業員にバレないよう、こっそりと瑠衣に耳打ちした。  その顔はどことなく暗い。  だがそれもそうだろう。ゲイバーで働いていることがクラスメイトに知られて、落ち着いていられるはずもないのだ。しかもこのあと、脅されると分かっていて。
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