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雨と黒猫、路地裏の誘い
今日は少し遅くなってしまった。空から落ちる不機嫌な粒に溜息ついた彼女は、濡れる事を覚悟で走り始めた。
傘を忘れる事なんて早々ないのに、偶に忘れるとこの有様なのだから、実は雲は私の事が嫌いなのではないかと思ってしまうのも致し方なし。それでも、この大雨はないだろうと悪態をつく。
帰路が終わるにはまだ時間がかかる。
大学生の仲間入りを果たしてまだ三ヶ月。桜の季節は過ぎ去り、青々とした葉が目立つようになった。夏がこれからというこの季節、無論雨の介入も多い。
今日だって朝はあれだけ快晴だったのに、夜になるとどこから来たのか豪雨が襲った。流石に雨は降らないだろうと高を括った結果がびしょ濡れのこの体だ。
帰りの為だけに傘を買う気力もなく、まだ新しい鞄を傘替わりに、荒い息を吐きながら走っていた。
不意に、猫の鳴き声が聴こえた。
こんな雨の中だ、それに注意を払う暇なんてないのに、彼女はつい足を止めてしまった。
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