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建物と建物の境目に出来た路地裏の脇。蓋付きの青い業務用ごみ箱の上に一匹の黒猫がいた。見る限りでは真っ黒な体毛。夜だから余計黒く見えたのか、黒猫の体は夜の闇に溶け、金色の瞳だけがそこにあるかのようであった。
そんな猫が、じっとこちらを見詰めていた。
ーー黒猫は不幸を運ぶ
不意に脳裏に掠めた知識が黒猫の印象を不快なものにする。
えもいえぬ不気味さに襲われた彼女は堪らず帰路に戻ろうと一歩を踏み出した。
ーーにゃあ
腑抜けた鳴き声だった。
彼女を見詰めていた黒猫はごみ箱から降りると、さも興味がなさそうに路地裏の奥へと消えていく。
一体何なんだろうか。まるで人間並みの知識を持ち合わせていそうな黒猫の雰囲気に彼女は首を傾げつつも帰路に戻った。
神林 優奈。田舎から上京し、都会の辺鄙な場所のアパートを借り受けて生活している。
大学一年目の彼女は慣れない環境、新しい生活、新しい人間関係に頭を悩ましつつも、充実した日々を送っていた。
一日何本も来る電車やネオンに彩られた街並みなど、地元とは全く異なる風景に困惑することは多々あった。
その中でも路地裏の不気味さには未だに慣れない。
別に路地裏には危ない人たちが屯っているとか、そういうことを恐れている訳では無い。そんな事は先入観でしかないし、彼女自身何度か路地裏を通ったことがあるから知っている。
ただ、昼はまだしも、夜の路地裏は先が見えないほどに薄暗い。
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